はじめに
みなさん、こんにちは。OrpheusのユーザーのMC Co-HEYです。
以前「自動作曲システム Orpheus 名曲99選」という記事を書きました。沢山の曲を紹介しましたが、タイトルとリンクを載せるだけの味気ない内容で、見返して見るととても心苦しいです。
今回は曲数を10曲に絞り、自分なりの解説やテクニック紹介を交えつつ、Orpheusで作られた名曲を紹介しようと思います。是非最後まで読んでください。
201201 オルフェウス最高 / 福浦さん ──胸を突く詞、リタルダンド除け
初期の名曲で、古いユーザーの評価も高い楽曲です。
ピアノ二重唱のゆったりしたイントロから、アップテンポになってなだれ込むように歌われるボーカルが印象的です。
歌詞は幾分抽象的な内容ですが
技術的なことに触れましょう。この曲には最後の節を空白にするというテクニックが使われています。
作曲条件を見てください。最後の節(第17節)の楽器・音節・ドラムスが指定されずに空白になっています。Orpheusには最後の節を伴奏にするとリタルダンド(テンポを次第に落とす)になるというデフォルト設定がなされています。なのでリタルダンドを避けたいときは、最後に空白の節を入れると設定どおりのスピードで曲が終わります。初心者の人に覚えてもらいたいテクニックです。
206990 がんじがらめのマリオネット(二重唱) / シュワッチ ──Orpheusを代表する楽曲
これもかなり古い曲です。
作曲者のシュワッチ氏は嵯峨山先生をして「当時としては抜群の作曲力」といわしめた伝説的なユーザーです。氏の活動はおよそ7年くらい前になるのですが、どの曲も素晴らしいクオリティです。中でも「がんじがらめのマリオネット(二重奏)」はユーザーからの人気も高く、メディアにOrpheusuが取り上げられるときに使用例として紹介されたほどで、Orpheusを代表する曲といっても過言ではありません。
シュワッチ氏の楽曲はどれも参考になりますが、一つだけ注意点があります。
Orpheusは年々改良されているシステムです。なので作曲条件を合わせてバージョンアップ前のOrpheusで作られた古い楽曲と同じメロディーを生成しようとしても、微妙に違ったメロディーになってしまいます。読みと抑揚、調整や和声や音域を合わせても完全に一致するとは限らないのです。古い曲を参考にする際はその点を留意した方がいいでしょう。
286432 夜を越えて / 嗅覚 ──曲のオシャレな締め方
「夜を越えて」は当時を代表するユーザーの1人・ネッシーくんが別名義で作った曲です。
氏も活動しなくなって久しいですが、クオリティの高い楽曲を沢山残してくれています。私的な話になりますが、私(MC Co-HEY)が一番リスペクトしていたユーザーは彼でした。
この曲もはじめに紹介した「オルフェウス最高」と同様に、曲の締め方に工夫が施されています。
この曲では最後の節が以上のような設定がなされています。まず伴奏とドラムが無音。そしてアコースティックピアノが指定された歌声も1行だけで、ピアノの旋律も後ろに「っ」を敷き詰めたとても短いフレーズになっています。最後の節でこのような条件指定をすることで、伴奏ではなく短いメロディーで曲を締めることができます。洒落た感じの締めにしたいときに非常に有効なテクニックです。
297414 両生類のうた / ネッシーくん ──独創的で甘美な名曲、大胆な転調法
ネッシーくんの最高傑作といえる曲です。
2分弱の曲ですが歌詞はとても短く、シュールです。
両生類とは誰なのか。「君と僕」は夏の日に何をしているのか。なぜ両生類は光を求めているのか。
謎に満ちた歌詞を、ボーカルの裏で鳴る三味線や、まるで泡のようなパーカッシブオルガンのアルペジオ、そしてストリングスやトランペットの美しいメロディーが彩ります。つかみどころのないぼんやりとした詞が、伴奏やメロディーの美しさを引き立たせているようです。
また、この曲には2回の変調がなされています。
1回目の変調の仕方がユニークです。氏は5節目からの間奏に「おすすめしないコード」というなかなか使われない和声進行を使用していますが、その4小節目(曲の節番号でいうところの第7節)でハ長調から変ニ長調に変調にしています。どの和声進行でも応用可能な変調テクニックというわけではないと思いますが、曲に変化をつけたいときに試す価値はあるでしょう。
298893 Orpheusで「般若心経」 / 作曲:清流さん ──Orpheusでお経、単調にならない工夫
どこの誰が思いついたのかは知りませんが、Orpheusには「お経」というジャンルが昔から存在します。ウッドブロックを木魚に見立て、歌声の音域を狭め、抑揚をゼロにすることで、まるでお経を読み上げているような曲を作ることができるのです。
今回取り上げた「Orpheusで「般若心経」」は、Orpheusのベテランユーザー清流さんによる作品です。お経シリーズはいろいろ見たような気がしますが、本物のお経を使った作品は意外にもこれが初めてだった気が…
どうしても単調になってしまうのがお経シリーズの唯一にして最大の欠点ですが、氏は伴奏に途中からチューブラーベルを加えたり、伴奏の音型を絶妙に変化させるで、単調さをしっかりとカバーしています。こうした工夫は一つの和声進行をずっと繰り返す曲を作った時にも参考になると思いますので、作曲条件を見ながら聴くことをおすすめします。
321008 暗いBGM風 / 段平 ──「サウンドトラック」を活かした現代音楽風Orpheus
Orpheusのユーザーのほとんどはボーカル曲を作曲しますが、歌声指定で合成音声以外を選ぶことでインスト曲も作れます。
その中でも屈指の名作といえるのが段平氏が作曲した「暗いBGM風」です。
タイトルの通り暗い雰囲気を携えたインスト曲です。最初に聴いたとき、武満徹の「砂の女」のサントラを連想しました。
この曲の強い特色となっているのが音色サウンドトラックが奏でる低音です。「サウンドトラック」はかなりクセの強い音色を奏でます。特に音が高くなった時のほわーんと浮き上がってくるような音色は相当に主張が強い。この曲ではベースのサウンドトラックがドの#を奏でた時に主張の強い音が聞こえます。
この曲の作曲条件に触れましょう。実は同じ和声進行、同じ伴奏音形を終始繰り返しています。つまり、ほわーんとした「サウンドトラック」の音色が一定の感覚で鳴り響くのです。俗にいうミニマル・ミュージックの趣きがあるといえるでしょう。
とはいえ単調に同じベースラインを繰り返すだけでなく、不規則的なドローバーオルガンの音色を加えたり、ほわーんとした音色が鳴る間隔を狭めるなど、聴いていてあきないような工夫もちゃんとなされています。
段平氏のプロフィールを見ると「趣味は宅録」と書かれています。音楽に精通した方がOrpheusを使ったときの凄まじさがよく分かる傑作です。是非聴いてみてください。
359917 楽園 / ひとり姫 ──音高指定機能、コピペ推奨の掛け合い
気が付けば最大5つ星になるまでにインフレしてしまった運営者推薦の★の数。どのような経緯でここまで増えていったのかはもはや記憶にありませんが、一つだけはっきりしていることがあります。3つ星が登場するきっかけになったのが、ひとり姫氏の登場だったということです。
ひとり姫氏は歴代で最もOrpheusを使いこなしたユーザーです。これは誇張ではなく、多くのユーザーや運営の方々を含めた共通認識ではないでしょうか。当然私もそう思っています。前述のシュワッチ氏や、しまじろ氏(残念ながら全楽曲は現在非公開)あたりと並ぶ伝説のユーザーです。
氏の何がすごかったかといえば、音高指定機能を使いこなしたところです。Orpheusはメロディーを自動生成してくれるツールですが、実は読みと抑揚を指定する際にその音の高さを指定することができます。氏の名曲「楽園」を例に使い方を説明しましょう。
最初の「あ」の後ろに[c5]と記入されています。こう記入することで、歌声の「あ」の部分は「上のド」で歌うようにOrpheusに指示することができます。このように読みに対し音高を指定することで、ユーザーの好きなようにメロディーを作ることができます。
角括弧内のアルファベットはドイツ語式の音階表記で、数字は音の高さを意味しています。またアルファベットの後ろにisやesと付け加えることで#や♭をつけることも可能です。ドイツ語式の音階表記については以下のサイトをご覧ください。
https://xn--i6q789c.com/gakuten/onmei.html
ただ、音高指定機能には2つ欠点があります。読み・抑揚を記入する欄に多く文字を記入しすぎると、Orpheusの処理限界を超えメロディーが生成されないことがあります。音高指定機能で使用する鍵括弧や英数字も文字数の残念ながらカウント対象になります。文字数次第ではせっかく指定した苦労も水の泡になってしまうかもしれません。
もう一つの欠点はめんどくさいことです。お手軽に作曲ができることがウリのOrpheusですが、作曲条件の試行錯誤を繰り返していると結構な時間がかかります。そのうえ音高指定までにこだわるとなると…私にとっては苦行でした。とはいえ、その苦労に見合うメロディーが生み出せる機能ですのでチャレンジしたい方はチャレンジしてみてください。
ひとり姫氏に倣う点は決して音高指定機能だけではありません。氏のもう一つの十八番は二重唱を使ったメロディーの掛け合いです。
「楽園」の二重唱条件の第3節目に「2拍弱起「真夏の果実」風」というリズム形が使われています。2拍弱起とはメロディーがその節の2拍前からはじまるという意味です。氏はこのリズム形の特色を利用し、表のトランペットと裏のティンパニの掛け合いを成立させています。聴いてみれば分かると思いますが、とてもカッコいいです。
音高指定機能は面倒ですが、2重唱の掛け合いは氏の曲の条件設定から「読みと抑揚」をコピペすれば簡単に真似することができます。氏の楽曲には他にも目の覚めるような掛け合いがありますので、形振り構わず拝借させてもらいましょう。
380414 あの夏の髙島屋 / 暮らしとロボット展/Orpheus ──「Winter, Again」最強説
4年ほど前に新宿のタカシマヤで「暮らしとロボット展」という催しが開かれ、自動作曲システムOrpheusも展示・体験実演されました。
その際に高島屋の事務局の方が作った詞に当時のユーザーのESCAPE氏が曲をつけてできあがったのが「あの夏の髙島屋」です。最近Orpheusでは「歌詞投稿・作曲募集」という機能が備わり、他のユーザーの作った詞を元に作曲ができるようになったのですが、「あの夏の髙島屋」はある意味その先駆けといえるかもしれません。
この曲は時間にして1分ジャストのとても短い曲で、作曲設定上の節も2つしかありません。
しかしながらとても面白い設定がなされています。
楽譜を見てもらうと分かるのですが、歌声を担当しているのは2段目になっています。つまりは二重唱設定で生成されるメロディーがメインとなっているのです。ちなみに1段目を奏でているのはエレクトリックグランドピアノです。メロディーというよりは伴奏のような形になっています。
ESCAPE氏が何を考えてこのような作曲設定を試みたかは定かではありません。ただユーザーとしては心に思い当たるものがあります。
二重唱機能を使うと元のメロディーは二重唱に合わせ変化します。場合によっては、二重唱にすることで元のメロディーと比べてガッカリなシロモノが出来上がる場合もあります。それでボツにした曲がどれだけあることか…
ならば逆転の発想。二重唱の方でメインの歌唱パートを作ればいいのです。そうすればガッカリしません。なのでたまには二重唱の方でメインのパートを作ってみるのもいいかもしれません。
そして忘れていけないのが、この短い曲の最大の主役ともいえる和声進行「Winter, Again」です。
読んで字のごとく、GLAYの大ヒット曲で使われた和声進行がそっくりそのまま使われています。
「WInter, Again」は和声進行の一覧の真ん中の方に位置しているので、表示設定を固定順にしていると探すのに難儀します。にもかかわらず高い使用頻度を誇ることが、この和声進行の有益性を物語っています。思考停止で使ってもガッカリさせない進行です。初心者の方々は絶対に覚えておくといいでしょう。
545923 笑う小さなサボテン / mico ──「KOMURO」最強説
昨年末にNHKで放送された特番でOrpheusが取り上げられたことがきっかけで、多くの番組視聴者の方々がOrpheusに年末年始にユーザー登録をしたそうです。かくいう私も同番組がきっかけで数年ぶりにOrpheusに戻ってきました。今のOrpheusは新しいユーザーの方々で賑わっています。
今回とりあげた「笑う小さなサボテン」の作者のmico氏も新しいユーザーの一人です。再生時間4分40秒の意欲作です。
伴奏楽器はアコースティックギター(ナイロン)とピッチカートのみ、和声進行はほとんど「KOMURO」というシンプルな設定な曲ですが、伴奏形を細かく変えていくことで曲の長さを感じさせないように仕上がっています。
ただ、この曲に関して言えば曲よりも詞がすごいです。
詞の意図は曲のコメント欄で氏が直々に説明していますので、私からは特にいうことはありません。一つ言うことがあるとすれば、それはこの詞を読んで私が泣いてしまったということです。
Orpheusのユーザーの書く詞と言えば「嵯峨山最高」とか「嵯峨山有能」といった嵯峨山先生に媚びへつらう内容ばかりという印象だったので(これはジョークです)、いろいろとびっくりしました。
こういう切ない詞に和声進行「KOMURO」──俗にいう小室進行はとても合います。最近のJ-POPでいえばKing Gnuの「白日」も小室進行ですね。日本人の心を掴む小室進行はOrpheusにおいても高い使用頻度を誇っています。困ったら小室進行を使いましょう。
553799 いつもより静かな午後 / MC Co-HEY ──MC Co-HEYの最高傑作
図々しいようですが、最後に自分の曲を紹介させてください。
「いつもより静かな午後」は自分の集大成といえる曲です。これ以上の曲を自分は作れないと思います。
この曲の詞はもともとは「歌詞投稿・作曲募集」に投稿しようと思ったものでした。ただ投稿する寸前に気が変わりました。「この詞は自分が曲をつけなければいけない」と思ったのです。そうしてできあがったのが「いつもより静かな午後」です。
私はOrpheusで一番公開曲数の多いユーザーです。よくこれだけ作ったなあ、と思います。正直な話、作曲に格別の興味はありません。聴く方が遥かに好きです。
ただ、自分の表現したいことをOrpheusを通して形にできるのはとても気分がいいです。出来がいいと思えれば思っただけ気持ちよくなれます。これだけの曲を作ったのは、こうした快感に病みつきになったからでしょう。
この名曲選がOrpheusのユーザーの皆さんの手助けになれば幸いです。
みなさん、こんにちは。OrpheusのユーザーのMC Co-HEYです。
以前「自動作曲システム Orpheus 名曲99選」という記事を書きました。沢山の曲を紹介しましたが、タイトルとリンクを載せるだけの味気ない内容で、見返して見るととても心苦しいです。
今回は曲数を10曲に絞り、自分なりの解説やテクニック紹介を交えつつ、Orpheusで作られた名曲を紹介しようと思います。是非最後まで読んでください。
201201 オルフェウス最高 / 福浦さん ──胸を突く詞、リタルダンド除け
初期の名曲で、古いユーザーの評価も高い楽曲です。
ピアノ二重唱のゆったりしたイントロから、アップテンポになってなだれ込むように歌われるボーカルが印象的です。
歌詞は幾分抽象的な内容ですが
というフレーズにはハッとさせられるのではないのでしょうか。自分は意味があることをしてきたのか。自分は価値があることをしているのか。このような不安にかられたことが誰しも一度や二度はあるのではないでしょうか。必死になって集めたコレクションが今になってガラクタばかりだと気づかされてそれでもまだ捨てられなくて考えてみれば生まれてこのかたそんなことばかりやってきたやってきた
技術的なことに触れましょう。この曲には最後の節を空白にするというテクニックが使われています。
作曲条件を見てください。最後の節(第17節)の楽器・音節・ドラムスが指定されずに空白になっています。Orpheusには最後の節を伴奏にするとリタルダンド(テンポを次第に落とす)になるというデフォルト設定がなされています。なのでリタルダンドを避けたいときは、最後に空白の節を入れると設定どおりのスピードで曲が終わります。初心者の人に覚えてもらいたいテクニックです。
206990 がんじがらめのマリオネット(二重唱) / シュワッチ ──Orpheusを代表する楽曲
これもかなり古い曲です。
作曲者のシュワッチ氏は嵯峨山先生をして「当時としては抜群の作曲力」といわしめた伝説的なユーザーです。氏の活動はおよそ7年くらい前になるのですが、どの曲も素晴らしいクオリティです。中でも「がんじがらめのマリオネット(二重奏)」はユーザーからの人気も高く、メディアにOrpheusuが取り上げられるときに使用例として紹介されたほどで、Orpheusを代表する曲といっても過言ではありません。
シュワッチ氏の楽曲はどれも参考になりますが、一つだけ注意点があります。
Orpheusは年々改良されているシステムです。なので作曲条件を合わせてバージョンアップ前のOrpheusで作られた古い楽曲と同じメロディーを生成しようとしても、微妙に違ったメロディーになってしまいます。読みと抑揚、調整や和声や音域を合わせても完全に一致するとは限らないのです。古い曲を参考にする際はその点を留意した方がいいでしょう。
286432 夜を越えて / 嗅覚 ──曲のオシャレな締め方
「夜を越えて」は当時を代表するユーザーの1人・ネッシーくんが別名義で作った曲です。
氏も活動しなくなって久しいですが、クオリティの高い楽曲を沢山残してくれています。私的な話になりますが、私(MC Co-HEY)が一番リスペクトしていたユーザーは彼でした。
この曲もはじめに紹介した「オルフェウス最高」と同様に、曲の締め方に工夫が施されています。
この曲では最後の節が以上のような設定がなされています。まず伴奏とドラムが無音。そしてアコースティックピアノが指定された歌声も1行だけで、ピアノの旋律も後ろに「っ」を敷き詰めたとても短いフレーズになっています。最後の節でこのような条件指定をすることで、伴奏ではなく短いメロディーで曲を締めることができます。洒落た感じの締めにしたいときに非常に有効なテクニックです。
297414 両生類のうた / ネッシーくん ──独創的で甘美な名曲、大胆な転調法
ネッシーくんの最高傑作といえる曲です。
2分弱の曲ですが歌詞はとても短く、シュールです。
両生類とは誰なのか。「君と僕」は夏の日に何をしているのか。なぜ両生類は光を求めているのか。
謎に満ちた歌詞を、ボーカルの裏で鳴る三味線や、まるで泡のようなパーカッシブオルガンのアルペジオ、そしてストリングスやトランペットの美しいメロディーが彩ります。つかみどころのないぼんやりとした詞が、伴奏やメロディーの美しさを引き立たせているようです。
また、この曲には2回の変調がなされています。
1回目の変調の仕方がユニークです。氏は5節目からの間奏に「おすすめしないコード」というなかなか使われない和声進行を使用していますが、その4小節目(曲の節番号でいうところの第7節)でハ長調から変ニ長調に変調にしています。どの和声進行でも応用可能な変調テクニックというわけではないと思いますが、曲に変化をつけたいときに試す価値はあるでしょう。
298893 Orpheusで「般若心経」 / 作曲:清流さん ──Orpheusでお経、単調にならない工夫
どこの誰が思いついたのかは知りませんが、Orpheusには「お経」というジャンルが昔から存在します。ウッドブロックを木魚に見立て、歌声の音域を狭め、抑揚をゼロにすることで、まるでお経を読み上げているような曲を作ることができるのです。
今回取り上げた「Orpheusで「般若心経」」は、Orpheusのベテランユーザー清流さんによる作品です。お経シリーズはいろいろ見たような気がしますが、本物のお経を使った作品は意外にもこれが初めてだった気が…
どうしても単調になってしまうのがお経シリーズの唯一にして最大の欠点ですが、氏は伴奏に途中からチューブラーベルを加えたり、伴奏の音型を絶妙に変化させるで、単調さをしっかりとカバーしています。こうした工夫は一つの和声進行をずっと繰り返す曲を作った時にも参考になると思いますので、作曲条件を見ながら聴くことをおすすめします。
321008 暗いBGM風 / 段平 ──「サウンドトラック」を活かした現代音楽風Orpheus
Orpheusのユーザーのほとんどはボーカル曲を作曲しますが、歌声指定で合成音声以外を選ぶことでインスト曲も作れます。
その中でも屈指の名作といえるのが段平氏が作曲した「暗いBGM風」です。
タイトルの通り暗い雰囲気を携えたインスト曲です。最初に聴いたとき、武満徹の「砂の女」のサントラを連想しました。
この曲の強い特色となっているのが音色サウンドトラックが奏でる低音です。「サウンドトラック」はかなりクセの強い音色を奏でます。特に音が高くなった時のほわーんと浮き上がってくるような音色は相当に主張が強い。この曲ではベースのサウンドトラックがドの#を奏でた時に主張の強い音が聞こえます。
この曲の作曲条件に触れましょう。実は同じ和声進行、同じ伴奏音形を終始繰り返しています。つまり、ほわーんとした「サウンドトラック」の音色が一定の感覚で鳴り響くのです。俗にいうミニマル・ミュージックの趣きがあるといえるでしょう。
とはいえ単調に同じベースラインを繰り返すだけでなく、不規則的なドローバーオルガンの音色を加えたり、ほわーんとした音色が鳴る間隔を狭めるなど、聴いていてあきないような工夫もちゃんとなされています。
段平氏のプロフィールを見ると「趣味は宅録」と書かれています。音楽に精通した方がOrpheusを使ったときの凄まじさがよく分かる傑作です。是非聴いてみてください。
359917 楽園 / ひとり姫 ──音高指定機能、コピペ推奨の掛け合い
気が付けば最大5つ星になるまでにインフレしてしまった運営者推薦の★の数。どのような経緯でここまで増えていったのかはもはや記憶にありませんが、一つだけはっきりしていることがあります。3つ星が登場するきっかけになったのが、ひとり姫氏の登場だったということです。
ひとり姫氏は歴代で最もOrpheusを使いこなしたユーザーです。これは誇張ではなく、多くのユーザーや運営の方々を含めた共通認識ではないでしょうか。当然私もそう思っています。前述のシュワッチ氏や、しまじろ氏(残念ながら全楽曲は現在非公開)あたりと並ぶ伝説のユーザーです。
氏の何がすごかったかといえば、音高指定機能を使いこなしたところです。Orpheusはメロディーを自動生成してくれるツールですが、実は読みと抑揚を指定する際にその音の高さを指定することができます。氏の名曲「楽園」を例に使い方を説明しましょう。
最初の「あ」の後ろに[c5]と記入されています。こう記入することで、歌声の「あ」の部分は「上のド」で歌うようにOrpheusに指示することができます。このように読みに対し音高を指定することで、ユーザーの好きなようにメロディーを作ることができます。
角括弧内のアルファベットはドイツ語式の音階表記で、数字は音の高さを意味しています。またアルファベットの後ろにisやesと付け加えることで#や♭をつけることも可能です。ドイツ語式の音階表記については以下のサイトをご覧ください。
https://xn--i6q789c.com/gakuten/onmei.html
ただ、音高指定機能には2つ欠点があります。読み・抑揚を記入する欄に多く文字を記入しすぎると、Orpheusの処理限界を超えメロディーが生成されないことがあります。音高指定機能で使用する鍵括弧や英数字も文字数の残念ながらカウント対象になります。文字数次第ではせっかく指定した苦労も水の泡になってしまうかもしれません。
もう一つの欠点はめんどくさいことです。お手軽に作曲ができることがウリのOrpheusですが、作曲条件の試行錯誤を繰り返していると結構な時間がかかります。そのうえ音高指定までにこだわるとなると…私にとっては苦行でした。とはいえ、その苦労に見合うメロディーが生み出せる機能ですのでチャレンジしたい方はチャレンジしてみてください。
ひとり姫氏に倣う点は決して音高指定機能だけではありません。氏のもう一つの十八番は二重唱を使ったメロディーの掛け合いです。
「楽園」の二重唱条件の第3節目に「2拍弱起「真夏の果実」風」というリズム形が使われています。2拍弱起とはメロディーがその節の2拍前からはじまるという意味です。氏はこのリズム形の特色を利用し、表のトランペットと裏のティンパニの掛け合いを成立させています。聴いてみれば分かると思いますが、とてもカッコいいです。
音高指定機能は面倒ですが、2重唱の掛け合いは氏の曲の条件設定から「読みと抑揚」をコピペすれば簡単に真似することができます。氏の楽曲には他にも目の覚めるような掛け合いがありますので、形振り構わず拝借させてもらいましょう。
380414 あの夏の髙島屋 / 暮らしとロボット展/Orpheus ──「Winter, Again」最強説
4年ほど前に新宿のタカシマヤで「暮らしとロボット展」という催しが開かれ、自動作曲システムOrpheusも展示・体験実演されました。
その際に高島屋の事務局の方が作った詞に当時のユーザーのESCAPE氏が曲をつけてできあがったのが「あの夏の髙島屋」です。最近Orpheusでは「歌詞投稿・作曲募集」という機能が備わり、他のユーザーの作った詞を元に作曲ができるようになったのですが、「あの夏の髙島屋」はある意味その先駆けといえるかもしれません。
この曲は時間にして1分ジャストのとても短い曲で、作曲設定上の節も2つしかありません。
しかしながらとても面白い設定がなされています。
楽譜を見てもらうと分かるのですが、歌声を担当しているのは2段目になっています。つまりは二重唱設定で生成されるメロディーがメインとなっているのです。ちなみに1段目を奏でているのはエレクトリックグランドピアノです。メロディーというよりは伴奏のような形になっています。
ESCAPE氏が何を考えてこのような作曲設定を試みたかは定かではありません。ただユーザーとしては心に思い当たるものがあります。
二重唱機能を使うと元のメロディーは二重唱に合わせ変化します。場合によっては、二重唱にすることで元のメロディーと比べてガッカリなシロモノが出来上がる場合もあります。それでボツにした曲がどれだけあることか…
ならば逆転の発想。二重唱の方でメインの歌唱パートを作ればいいのです。そうすればガッカリしません。なのでたまには二重唱の方でメインのパートを作ってみるのもいいかもしれません。
そして忘れていけないのが、この短い曲の最大の主役ともいえる和声進行「Winter, Again」です。
読んで字のごとく、GLAYの大ヒット曲で使われた和声進行がそっくりそのまま使われています。
「WInter, Again」は和声進行の一覧の真ん中の方に位置しているので、表示設定を固定順にしていると探すのに難儀します。にもかかわらず高い使用頻度を誇ることが、この和声進行の有益性を物語っています。思考停止で使ってもガッカリさせない進行です。初心者の方々は絶対に覚えておくといいでしょう。
545923 笑う小さなサボテン / mico ──「KOMURO」最強説
昨年末にNHKで放送された特番でOrpheusが取り上げられたことがきっかけで、多くの番組視聴者の方々がOrpheusに年末年始にユーザー登録をしたそうです。かくいう私も同番組がきっかけで数年ぶりにOrpheusに戻ってきました。今のOrpheusは新しいユーザーの方々で賑わっています。
今回とりあげた「笑う小さなサボテン」の作者のmico氏も新しいユーザーの一人です。再生時間4分40秒の意欲作です。
伴奏楽器はアコースティックギター(ナイロン)とピッチカートのみ、和声進行はほとんど「KOMURO」というシンプルな設定な曲ですが、伴奏形を細かく変えていくことで曲の長さを感じさせないように仕上がっています。
ただ、この曲に関して言えば曲よりも詞がすごいです。
詞の意図は曲のコメント欄で氏が直々に説明していますので、私からは特にいうことはありません。一つ言うことがあるとすれば、それはこの詞を読んで私が泣いてしまったということです。
Orpheusのユーザーの書く詞と言えば「嵯峨山最高」とか「嵯峨山有能」といった嵯峨山先生に媚びへつらう内容ばかりという印象だったので(これはジョークです)、いろいろとびっくりしました。
こういう切ない詞に和声進行「KOMURO」──俗にいう小室進行はとても合います。最近のJ-POPでいえばKing Gnuの「白日」も小室進行ですね。日本人の心を掴む小室進行はOrpheusにおいても高い使用頻度を誇っています。困ったら小室進行を使いましょう。
553799 いつもより静かな午後 / MC Co-HEY ──MC Co-HEYの最高傑作
図々しいようですが、最後に自分の曲を紹介させてください。
「いつもより静かな午後」は自分の集大成といえる曲です。これ以上の曲を自分は作れないと思います。
この曲の詞はもともとは「歌詞投稿・作曲募集」に投稿しようと思ったものでした。ただ投稿する寸前に気が変わりました。「この詞は自分が曲をつけなければいけない」と思ったのです。そうしてできあがったのが「いつもより静かな午後」です。
私はOrpheusで一番公開曲数の多いユーザーです。よくこれだけ作ったなあ、と思います。正直な話、作曲に格別の興味はありません。聴く方が遥かに好きです。
ただ、自分の表現したいことをOrpheusを通して形にできるのはとても気分がいいです。出来がいいと思えれば思っただけ気持ちよくなれます。これだけの曲を作ったのは、こうした快感に病みつきになったからでしょう。
この名曲選がOrpheusのユーザーの皆さんの手助けになれば幸いです。
コメント
コメント一覧 (1)
始めてから2ヶ月くらいですが、少しずつ諸先輩方の作品で何をされたかを読み取れるようになってきてそれを取り込めるようになってきたところですが、諸設定を見てもまだ私の技量では気づかないような技や知らない真似できそうにない技も多いので、このような解説と見方を教えてもらえてうれしいです。
また、私の曲も紹介されていて、心臓が飛び出そうでした。
オルフェウスって泣けるんだと実感している曲の一つです。詩とメロディが一致したときに、合成の歌声だとわかっているのに、そのフレーズができた瞬間から完成もしないのに泣いていました。
専門用語や音楽知識も全くないただの主婦ですが、子どものために作っています。願いだけは人より強い自信があります。
オルフェウスでは、音楽も料理も素人ですが、料理と食べることを思い出して作っています。
イメージとしては米津さんとモリライスが私の中で同じで、彼の音選びとスパイス選びが同じで、ドラムが食感(歯ごたえやのどごし)です。
たぶんその方向性は間違ってないんだろうなと思います。
こちらのサイトには、オルフェウスの曲作りの参考に訪れる方が多いと思いますので、勝手ながら書き留めさせていただきました。
みんな必ず食べますから、ド素人の方は私みたいな作り方でも、オルフェウスでしたら通用します。
オルフェウスの楽器は『オルフェウス楽器』と思って見たほうが、組み合わせによって面白い音を奏でてくれます。
誰かの参考になればと思います。
MC Co-HEYさん。あの曲を選んでいただいてありがとうございます。
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